2011年7月13日水曜日

年金改革

こんにちは。市川です。ようやく試験が終わりましたので言論NPOインターンの活動も再開します!

思ったのですが、このブログ、「言論NPOインターンブログ」であるはずなのにほとんど「市川ブログ」状態になってしまっています。私としては発言の機会を与えられてありがたいのですが、一人の学生の独壇場になることが決してよいことだとは思いません。本来、このブログは色々な大学・専門の人が持ち回りで書いていたはずなのですが。。。

ということで、言論NPOの活動に少しでも興味のある学生の皆さまのお問い合わせをお待ちしております!
http://www.genron-npo.net/join/intern.html


今回は、以前書いた文を投稿します。長いです。


【厚生年金適用範囲の拡大はどうなるのか】

厚生労働省は平成13年、「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」の報告書を発表した。その内容は第3号被保険者制度や離婚時の年金分割など検討会で議論された6つの課題が中心であり、中には既に解消された論点もあるが、未だ課題として残されているものも多い。特に短時間労働者等に対する厚生年金適用拡大の問題は報告書の発表から10年になる現在も大きな論点として議論されており、本年6月「社会保障改革に関する集中検討会議」がまとめた改革案においても言及されている(後述)。以下この問題について適用拡大の利点と難点を明らかにし、政治の動きや今後の見通しについても述べていきたい。


適用拡大すると・・・

 短時間労働者とはパート労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)において通常の労働者に比し所定労働時間の短い労働者を指すとされ、厳密にはパート労働者と異なるが、短時間労働者のうちかなりの割合をパート労働者が占めている。そして、パート労働者の約90%は女性であり半数近くは国民年金の第3号被保険者となっているのであるが、第3号被保険者とは第2号被保険者(被用者年金被保険者)に扶養され自ら保険料を負担していない配偶者を言う。現在第3号被保険者となるには労働時間が通常の労働者の概ね4分の3未満、年間収入が130万円未満でなければならない。


 これが何を意味するかと言えば、まず問題として挙がるのは女性が第3号にとどまるために行う就業調整や賃金抑制である。労働するということは賃金を得て生活を向上させようということなのであるから、制度の存在によって働く時間を抑制せざるを得ないというのは何とも奇妙な話である。働く意欲と能力があるのであれば、自らの努力によって最大限の収入を得てその分が年金にも反映されるというのが真っ当ではないか。わが国の年金制度が応能負担を掲げる以上、第3号被保険者以外の人との公平を確保するためにも負担を求めていくべきである。


 また、現在女性雇用者の3割以上がパート労働者であるため、年金財政にも大きな支えとなることが期待される。国民に新たな負担をお願いするのはできれば避けたいところだが、かつてないスピードで進む少子高齢化・労働力減少の中で強ち間違った方向ではないであろう。


本当にそれでいいの?

 それならば直ぐにでも厚生年金の適用範囲を拡大し負担を求めていくべきかといえば、必ずしもそうではない。まず、労働者自身の理解を得る必要がある。家計を支えるために少しでも手取りを多くほしいと考えるのは特にこの不況の中では自然であるし、払った分が将来本当にもらえるのか当てにならないという意見ももっともである。また、年金保険料の半分は使用者負担となることからも容易に想像できるように、パート労働者を多く抱える外食・流通業界などは猛反発している。これまで短時間労働者を多く雇用して負担が軽減されていたのだから今後は痛みを経験すべきだという考えもあるが、ただでさえ低迷する百貨店業界などが負担増に震え上がるのも無理はない。家計を圧迫し個人消費に影響を及ぼすということもありえよう。


 これらの点に関し、検討会の報告書は「論点もある」「今後十分な検証が必要である」などと述べるにとどまり、正面から反対意見に向き合おうとしていない。厚生年金適用推進に関する議論は非常に説得力をもって進められているのだが、デメリットに対する反論がやや具体性を欠くため、はじめから負担増ありきだったのではないかという疑問を禁じ得ないのである。


社会保障改革は政局に翻弄されていないか

 前述のとおり、この論点は報告書が出された時あるいはそれ以前から10年以上に亘って議論されている。しかし、年金制度の核心に触れることや経済界をはじめ多数の利害にかかわることから大幅な改革には至っていない。平成18年には安倍晋三首相が所信表明演説で「再チャレンジ支援策」として「パート労働者への社会保険の適用拡大などを進めます」と述べた上で検討に入ったが、翌年頓挫してしまった。これには原因として財界の反対ということが挙げられるが、もう一つ考えられるのは首相の退陣すなわち政治の不安定性である(安倍首相は平成19年9月、参院選敗北を受けて辞任)。それから4年、今年6月に政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」は会議における委員の意見、厚生労働省改革案などを踏まえ改革案を発表した。その中で年金改革については「短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大、第3号被保険者制度の見直し(以下略)」と明記、菅直人首相も意欲を示しいよいよ本腰を入れてこの問題の対応にあたるのではないかという印象を受けなくもない。しかし、現状を見る限り今回もまた政治状況に翻弄されるのではないかという懸念がある。菅首相が「辞任3条件」なるものを示すほど現政権は弱体化しており、今後の社会保障が如何なる方向に進むのか全く不透明なのである。


 東日本大震災を受けて被災地の生活が待ったなしの状況にあるのは言うまでもなく、日本全体をみても国民のほとんどが現行の社会保障制度に不安や疑問を感じている。国家のサステナビリティに直結する議論は政局に振り回されるべき事柄ではないはずであり、政治そのものも中長期的なビジョンを描けるくらいの安定性は保っていかねばならないのである。しかし、残念なことに今この国の政治はそれができていない。極めて憂慮すべき事態である。


 平成13年の報告書は最後に「国民的議論が求められる」と言っているが、同感である。短時間労働者への厚生年金適用の問題は、それだけを単独で考えても答えが出るものではない。女性の就労支援や子育て支援、健康保険制度や税制など多方面からのアプローチが不可欠であり、年金制度全体ひいては国家のあり方(例えば、大きな政府か小さな政府か)にまで及ぶ重大な論点をはらむ課題である。国家の命運を左右する問題であるからこそ、(これは社会保障に限ったことではないが)主権者国民がもっと議論に参加した方がよいと思うのである。国民はそこまでの情報を持ちえない、あるいは自分の生活で精一杯だという指摘があることは承知しているが、国民不在の議論がもつ弊害は十分に認識しなければならない。加えて、政権が変わるたびに議論を振り出しに戻すのではなく、ある程度議論の蓄積ということを意識すべきである。言いかえれば議論の継続性ということになるのであろうが、政治家が官僚をいかに使うかにかかっているといえよう。